晩秋だけど、「初秋」しかない
今週のお題「読書の秋」
「読書の秋」とくれば、もう「初秋」しかないですね。これはロバート・B・パーカーの傑作ハードボイルド小説です。
両親の離婚に振り回され、無気力・無関心になった少年ポールを主人公の探偵スペンサーが「育て直す」話です。
どうやって、育てなおすかというと、まず筋トレ。有酸素運動としてジョギング。オトナの男としてのファッションを一から教える。
なかでも極め付きは大工仕事。「椅子でもつくるのかな?」と思ってしまった私は甘かった。そんなもんじゃありません。「家を建てる」。しかも土台から、材木を切って。
このものすごくマッチョな教育。読んでてうんざりするかと思えば意外にさわやか。
さわやかさの理由は、スペンサー探偵が「自分は自分のできることを教えているだけ。それしか教えられないから」とはっきり自覚しているからです。決して「すべてのオトコはこうするべきだ」と思っているわけじゃない。
その証拠に、鍛えられたポールが見つけた自分のホントに好きな世界は、マッチョとはかけはなれたものだったけれど、別にスペンサーは驚かないし、反対もしません。素直に祝福している。ポールが好きなものが何かは、読んでのお楽しみ。
この作品は80年代に書かれたもので、ネオ・ハードボイルドと呼ばれる系統にあたります。たとえば「美女の誘惑を袖にする」ような、ハードボイルド的お約束はしっかりおさえられています。(袖にするってトコがポイント)
「人を助ける」もハードボイルドのお約束ではあるけれど、ロバート・B・パーカーは「初秋」において、「少年を助けて、育てる」というテーマを加えました。過去のハードボイルドにはなかった点です。
ポールはなぜ、何もできないし、やる気も関心もなかったのか。
それは、どちらの親も、ポールを相手に対するいやがらせや離婚訴訟の駆け引きの材料として使っているだけで、この少年の心にいっさい関心をもたなかったからです。
親や周囲の大人が関心をもたない領域は、子供にとって「存在しない」も同然なんだと思います。だから、ポールは自分の心に関心がない。
ポールを「かわいそうな少年」として描いていたら、この作品は別なものになっていたでしょう。「かわいそう」ではなく、「無関心」に焦点を当てたところがこの作品のキモです。
蛇足ですが、「教育係はお母さん」という典型的な昭和の家庭に育った私は、作品にあふれる「父性」というものにクラクラしてしまいました。「父性」に飢えた人にもおすすめの一冊です。