ゼルキンとルービンシュタイン
エッセイ、読みすすめてます。
出身地はどちらも東欧、年ははなれているとはいえ十才程度、いやでも比較されてしまうこの二人。演奏から練習スタイルから生き方までまったく違います。
ゼルキンはきっちりとした固い演奏で、宝石がキラめくような質感。完成度が極めて高く、この完成度を維持するために、信じられない量の練習を毎日欠かさずしています。
信じられないのは練習の量だけじゃないんだな。ゼルキンは必要だと判断した場合、ガタガタの弾きにくいピアノで何時間も練習します。練習用のいいピアノでは指が鍛えられないそうです。
まるでスポコン漫画のようなこんな練習はゼルキンしかやらない。ひどいピアノで今日もごりごり、明日もごりごり。
そうして練習しまくったあとの演奏時の緊張感たるや、「完成度が足りないようなら、みども、腹かっさばいてお詫び申す!」と言わんばかり。
すばらしい演奏でものすごく感動しますが、疲れるのがゼルキン。
一方、ちっとも疲れないのがルービンシュタイン。まず練習はあまりしません。きらいです。
特訓ありえません。
演奏時はいつも上機嫌です。女性にはもうモテモテ。
天才なので、暗譜はすぐできます。
余裕綽々のルービンシュタインですが、一度だけコンサートで演奏中に楽曲を完全に忘れたことがありました。
頭の中は真っ白。何も出てこない。
困ったルービンシュタインはメロディをでっちあげ、「そのうち思い出せるだろ」と思いきや、いくらでっちあげを続けても、思いだせません。
結局、全曲でっちあげることになってしまいました。
師匠のピアニストにどれだけ叱られるかと、おそるおそる楽屋に帰ってくると、そのピアニストは叱るどころか
「おまえは本当に天才なんだな。今日おまえがやったことは俺にはぜったいにできない」と言ったとか。
もちろん客は大喜び。
この話を夫にしたら、
「なんだ、志ん生と同じじゃないか」
破天荒な落語家で有名な志ん生。ある日べろべろに酔って落語をはじめました。
ついに居眠りしはじめたのを、弟子たちがひっこめようとすると、なんと客が
「寝かしといてやれ!」
この話を思いだしました。ルービンシュタインの話でいまひとつビックリしないと思ったらこのせい?
女優の池波志乃が夫の中尾彬の浮気をまったく気にしていなかったという逸話を思い出します。
池波志乃は志ん生の孫だからね。こんな人間ばなれしたトンデモ祖父さんがいたら、夫がなにしようとビックリはしないでしょう。