今週のお題「秋の空気」ムーミン谷の11月
今週のお題「秋の空気」
私は若いころ、とても秋が好きでした。でも、今は秋がときどき苦手です。
「秋の日は釣瓶落とし」という言葉どおり、ちょっと暗くなってきたと思ったら、すとん、と日が落ちてしまうあの感じが悲しい。ギラギラしたくどくて長い真夏の夕暮れが好きなわけでもないのに。
いつからそうなったか、というと、30代後半くらいからです。要するに、年をとったということかもしれませんが。
私以外にもそんな人がいたら、おすすめの一冊があります。「トーベ・ヤンソン」の「ムーミン谷の11月」
これは、ムーミンシリーズの中では地味な大人向きの作品です。
主役になるのは、普段は脇役のキャラクターたち。彼らはムーミン一家ほど外交的な性格でもなく、ミーやスナフキンほど個性的ともいえません。気難しく、地味で人つきあいが下手な人たちです。
その彼らが日常の中でそれぞれに「いつまでも生きていられるわけじゃないんだ」と気づかされるような経験をします。例えば、二階の窓の外側を拭くために屋根から下に落ちかけた、というような。
いてもたってもいられなくなった彼らは、思いをめぐらせ、自分が今までいちばん楽しかったことはなにかを考え、ムーミン一家とすごしたあるひと夏を思い出します。
彼らはすてきだったひと夏をもとめてムーミン谷を訪ねます。
ところが、悪いことに季節は11月、ムーミン一家は旅行中で留守。もともと人つきあい下手な人たちばかりが集まって、どう考えてもうまくいきそうもない、どうするの?というオハナシ。
秋のひんやりした空気の中に死の予感を感じとり、それをこういったストーリーの形で表現できるヤンソンはほんとにすばらしいと思います。最後には希望も用意されています。
もしあなたが秋がつらくなってきたなら、染み入るようにわかる一冊かもしれません。