非結核性抗酸菌症そらりす

非結核性抗酸菌症の患者の日常・投薬歴・入院歴です

イチゴのガウン

「そらりすさんって、おしゃれね。たいしたものは着てないけど」

そんなことをある人から言われた、と彼女から聞いたことがあります。

「たいしたものじゃなくて悪かったな。でも、その通りか」そらりすは笑っていました。

高級品を買いまくる財力が私たちになかったのは事実です。そして、そらりすは、たしかに服にこだわりを持っていました。どんなこだわりかと問われるとうまく言えないのですが、基本的にはシンプルなスタイルが好きで、でもシンプル一辺倒じゃつまらないから遊びっぽい色や柄も取り入れたくてあれこれ迷っている、といった感じでしょうか。ともあれ、微妙な色や形のちがいに対しては、とても繊細な感度を彼女は持っていました。

だからなのか、自分が着るものを選ぶよりは、ちょっと昔のドレスやスーツについてオタク的に研究するほうが楽しかったのかもしれません。シャネルとスキャパレリのライバル関係とか、ツイードは英国貴族が使用人に着せたのが起源だとか、彼女のおかげで私もいろいろ勉強になりました。

 

病気でウチにばかりいるようになってから、そらりすが服をもっぱらネット通販で買うようになったことは前回書きました。外出着ではやはりシンプルなファストファッションを注文していましたが、パジャマは賑やかな柄物を選ぶようになったのは私にもわかる変化で、ちょっと意外に感じましたが、

ベッドにいる時間が長くなる → パジャマの着替えが多く必要 → 安いものを選ぶ 安物はダサい柄のものが多い

ということなのでしょう。

4回目、最後の入院中に、そらりすが注文したフリースの中国製ガウンが届きました。なんと、イチゴ模様。それも、どぎついほどはっきりしたイチゴで・・・

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けど、このころになると私にもなんとなくわかっていました。派手でかわいい柄の服を着ることで、彼女はしんどい自分を奮い立たせようとしていたのです。

 

そしてもうひとつ、今だから思うことなのですが、彼女は子どもに返ろうとしていたような気もします。

 

ガウンは、立って動くときに着るので、横になっていることが多くなったそらりすには、あまり役に立たなかったかもしれません。

最後のころ、そらりすはふつうの食事ができなくて、少しのイチゴだけ食べていた何日かがありました。

「イチゴのガウン着てイチゴ食って、昔のベタなアイドルみたいだな」と私は冗談を言ったような気がします。痛々しい姿でしたが、俗っぽさがなくて妖精じみたようなそらりすを、かわいいと私は思いました。ほんの数日後にその日が来てしまうことになるとは、想像もしていませんでした。彼女はなにを思っていたのか、もう誰にもわかりません。