非結核性抗酸菌症そらりす

非結核性抗酸菌症の患者の日常・投薬歴・入院歴です

なぜかイブプロフェンにもうひとつ思い出があった。その2

アラサーの女の子の父親は、病室にはいってきてから主治医がくるまでの数分間で娘の状態を聞きただし、すでにいらだっていました。

 

実際、彼女の痛みは転げまわるようなタイプのものではない様子。かといって、今投与されているイブプロフェンで痛みをおさえて職場に復帰できるかといえば、そうでもなさそうです。何と言ってもまだ原因不明なわけですし。

 

「痛みはどんなもんなんだ?いつでも痛いのか?仕事はどうするつもりなんだ?」

マシンガンのように質問をくりかえしても、煮え切らない答えをする娘に、父親は半分切れ気味でした。

「おまえはどうしたいんだ!仕事をやめたいのか?」

 

主治医がはいってくると、父親はすぐに病状と原因について聞きただしはじめました。いくつかの検査結果待ちらしく、主治医もはっきりしたことは言いません。

 

そのうち、父親は、処方されたイブプロフェンの量を見て、あっと言いました。

 

「こんな分量で効くわけがない!自分はアメリカで何度ももっと多くの量を飲んでいますよ。こんなんじゃダメだ。薬の量を増やしてください!」

 

うわー、交渉してる!主治医相手に。

間仕切りの薄いカーテン越しに話を聞いていた私は驚きました。

 

主治医だって「はいそうですか」と譲るはずもなく、二人のあいだで一種のディベートがはじまりました。主治医の言い分は、ひと言で言えば日本には薬事法で決まった処方のガイドラインというものがあり、それに従って処方しているので、それをはみ出す処方はできないということです。

 

でも、そんなことでこの父親はひきさがりません。

 

イブプロフェンなんて市販薬でしょう。多く飲んだって問題ない。このまま痛みをほっとくほうがよっぽど問題なんだ!こちらが責任もちますから、薬の量を増やしてください!」

 

なんだかんだ言って、このディベート、父親が勝ちました。まだ若い主治医は、調剤薬局のほうから苦情がくる…としぶりつつ、薬の処方を変えました。

 

私はこのやりとりを複雑な思いで聞いていました。

 

入院する2年くらい前に、私は原因不明の頭痛に苦しんだことがあります。そのとき、はじめはポンタールを処方され、ちっとも効かず、検査しても原因はわからないままに痛みは続き、次にアセトアミノフェン。何日もたってからやっとロキソニン、それで多少よくなったけれども、それでも足りなくて座薬の鎮痛剤でやっと痛みがおさまったという経験をしていたからです。

 

たしかに、最初からリスクの高い薬を出すのはよくないのかもしれません。ただ、弱い薬から少しずつ試して、まだ効かない、まだ効かないとやっているうちに、患者が苦しみぬいてしまうのも事実です。

 

せめてロキソニンくらい、さっさと出してくれたほうがよかったかも、という思いもあるので、この父親の言うことにも一理あると思ったのです。

 

ただ、この四人の相部屋に響き渡るやりとりを、アラサーの女の子はどんな気持ちで聞いていたんでしょうか。

 

今まできっと何度も何度もこんな感じの場面はあったのかもしれません。もしかしたら、慣れているのかもしれない。いや、でも完全に慣れっこで平気なら、両親がくるということがわかったとたんにあんなに表情が変わることはなかったでしょう。

 

後日、検査の結果が出たようで、彼女の痛みの原因はたしか脾臓膵臓が一般よりも大きいためという、私には理解できない理由でした。

 

イブプロフェンを増やしたことがよかったのか、痛みも軽くなっている様子です。

 

私よりはやく退院することになった彼女に、

「あんな感じのお父さんで、あなたつらくない?優秀なんだろうけど、正しいんだろうけど、それであなたは助かってるところも多いんだろうけど、なんか、しんどいんじゃないかな…」

 

とかなんとか、言いたかったけど、なんとなく言えずじまいでサヨナラになりました。

 

今、彼女はどうしているのかな?

 

巨乳でオトコでもつかまえて、両親からはなれて、幸せになっててくれないかなあ。あの両親が理解できないようなファニーな幸せでいいじゃん。何も言えなかったオバサンは、意味もなく、彼女の幸せを夢想するのでした。