非結核性抗酸菌症そらりす

非結核性抗酸菌症の患者の日常・投薬歴・入院歴です

イブプロフェンの思い出

イブプロフェンが新型コロナを悪化させるかどうかは曖昧ですが、イブプロフェンの売れ行きはきっとガタおちなんだろうなあ、と思います。

 

このイブプロフェンには思い出?のようなものがあります。

 

もう何十年も前のこと、私はドラッグストアでアルバイトしていました。当時のドラッグストアは今と比べてなにかとゆるく、薬剤師でもなんでもないバイトに白衣を着せて店に立たせるのが普通でした。(なかには店で一人しかいない薬剤師が資格の免状だけ貸してほとんど出勤しないことすらあったというハナシが…)

 

私も白衣を着て接客。お客はみんな、私のことを薬剤師だと思ってます。なんだかなあ、と思いつつ、いちおうマジメに仕事をしていました。

 

そんなある日、成分がイブプロフェンのみのある薬を買いにきたお客様が。この薬はイブプロフェンの含有量が多めの、普通の客はまず知らない薬です。

 

このころすでに「頭痛、生理痛にイブ」とエスエス製薬のイブのテレビコマーシャルはよく流れていましたから、その「イブ」ではなくてこの薬を指名買いする人はあまり多くありません。コマーシャルも流れていないマニアックな薬です。

 

そしてそのお客様は20代半ばくらいの作業員風の男性なんですが、なんというか、雰囲気がやばい感じ…。

 

機嫌はいいんですよ、笑顔です。いやなことを言うわけでもありません。ただ、この男性からは、いろいろなことがよくわかってなさそうな感じが漂ってきます。

 

だれかにこの薬を教わってきたのかな、と思いました。マニアックな薬だし、箱に書いてある説明をちゃんと読んで説明して普通に売りました。

 

それから数日後。

 

「あ、あんただ、どうも、どうもありがとう。ものすごく効いたよ、あの薬」

 

ニコニコしています。あのイブプロフェン含有量おおめのマニアックな薬を買っていったお客様です。

 

「今までさあ、咳がどうしても止まんなかったんだよね、それが、止まったんだよ、ありがとう、おんなじ薬またください!」

 

笑顔でお礼を言ってくれています…でも、なぜだろう、このお客様の笑顔は私をひどく不安にさせる…

 

「そうですか、よかったですね!」と同じ薬をただ売って帰ってもらってもよかったのですが、気になったので薬の裏面の取説をもう一度説明しようとして、薬をひっくりかえして、はっと気がつきました。

 

「この錠剤は、一日量12錠を一日三回から四回にわけてお飲みください」って書いてある…

 

まさかとは思うけど、まさかとは思うけど…

おそるおそる聞いてみました。

 

「お客様、この説明のとおりお飲みになったんですよね、12錠を一日三回から四回にわけて…」

 

「うん?一回に12錠飲んだよ」

 

「ええええ?一日何回のんだんですか?」

 

「ごはんのあと」

 

じゃあ、三回だ…このお客様は容量の三倍量を飲んじゃったわけだ…

 

私は一生懸命、その飲み方は間違った飲み方です、もうぜったいしないでくださいね、と言いました。説明もしつこめにしました。うろんな顔をしてたけど、いちおうわかってくれたと思います。

 

そして、でもさあ、効いたよ、よかったよ、とニコニコしながら帰っていきました。

 

やれやれ、健康被害が出なくてよかった…とそのときは思いました。今になって、非結核性抗酸菌症を患って副作用もさんざん経験した今になって、思い返してみると、いろいろあぶない話です。うーん、うーん…

 

私は飲み方の説明はマジメにちゃんとしたんですよ。でも、まさか一回に12錠飲んじゃう人がいるとは考えてもみませんでした。

 

これ以後、この薬を売るときは、「一日12錠ですよ、一回12錠じゃないですよ!」と念を押すようにしました。

 

この店ではその後、考えられないお客様にぼちぼち出会いました。たとえば、当時流行の泡の出るムースの泡が出ないと怒り狂うオバサンとか。このオバサンはムースの缶をいっさい振ってなかったんですね。

 

12錠飲んで咳が止まったあのお客様、たぶん、その後も別のものでなにか間違った使い方をしつづけているような気もするけれど…それでも、どっこい元気に生きているのかもしれません、あの笑顔で。